悪魔の音程(The Devil’s Interval)ってご存知ですか。
不協和音の中でも「最も不快な音」として知られる音程のことです。
音楽の歴史を辿るとなんとバロック期までは音楽家たちに封印されていたという、まさに悪魔の響きを持つサウンドなのです。
今回はそんな悪魔の和音「トライトーン」について学んでみましょう。
トライトーンとは
3全音(tritone)。
別名、増4度/減5度。
トライトーンとは、音程が全音3つ分の関係にある音のことを指します。
この2音を同時に鳴らすと、強烈な不協和音になります。
鍵盤で見ると分かりやすいですね。
半音6個( =全音3個)ぶんの位置にあるBとFの音は「トライトーン」の位置関係になります。
こちらはベースの指板上で見たトライトーンの位置関係。
Rootと♭5thの位置関係になります。
おおぅ……、
めっちゃ不協和音……!
音の距離に関するお話しは「音程について」の記事で詳しく解説しています!
トライトーンの機能について
Tritone ⇨ Tonic
トライトーンの不安定な響きには「トニックに戻りたがる」という性質があります。
トニックに戻りたがるといえば、ドミナントの機能でした。
つまり、トライトーンにはドミナントに近い特性があるということになります!
ドミナント7thコードとトライトーンについて
こちら、指板上の7thコードのコードトーンです。
コードトーンについては「【超重要】ベースの指板上のコードトーンの位置を覚えよう」の記事で詳しく解説しています!
「コードの仕組みを理解しよう」の記事とあわせて勉強しておきましょう!
M3rdと7thの音に注目すると、7thコードの中にはトライトーンが含まれていることが分かります。
ドミナント7thコードにトニックに戻りたがる性質があるのは、ドミナントの和音のなかにトライトーンが含まれているからなんですね!
♭5系のコードとトライトーンについて
同じくドミナントの効果を持つm7(♭5)コードのなかにも、やはりトライトーンが含まれています。
これでダイアトニックコードのVIIm7(♭5)にドミナントの性質がある理由もはっきり分かりましたね!
詳しくは「コードの機能について」の記事で解説しています!
トライトーンを解決させる音階について
じゃじゃん。
こちらはG7-Cという典型的なV-I進行なんですけども。
トライトーン(ドミナント)からトニックに解決する動きを指板で見ると、こんな面白い動きになります。
指板上でトライトーンの指使いが反転しているのが分かると思います。
この動きがポイント。
鍵盤で見ると、左右から幅を半音ずつ狭める動きになります。
BはCに向かう強傾性音、そしてFはEに向かう強傾性音です。
ドミナント7thコードには、
- トニックの構成音に向かいたい2つの傾性音
- 緊張性の強いトライトーン
という一刻も早く落ち着きたい要素がかけ合わさっています。
これがI度のトニックに進行することによって、大円満で解決されることで音楽的な心地よさが生まれます。
半音ずつ動くから「半進行」ですね!
コードの動きでとらえるなら、ドミナントモーションの動きと同じです!
この動きを
- ドミナト・レゾリューション(Dominant Resolution)
- トライトーン・レゾリューション(Tritone Resolution)
と呼びます。
シューベルトの魔王にひそむ悪魔の音程
ここからはトライトーンに関する豆知識。
シューベルトの「魔王(Erlkönig)」ってあるじゃないですか。
小中学校の音楽の時間にやった――
おとーーさーーーん!おとーさーーーん!!
きこーーえなーいのーーー!!
デデデ デデデ デデデ デデデ♪
――でお馴染みの、アレです。
Dem Vater grauset’s, er reitet geschwind,
Er hält in dem Armen das ächzende Kind,
Erreicht den Hof mit Müh und Not;
In seinen Armen das Kind war tot.
これが魔王のドイツ語の最後の歌詞になります。
そして、これが魔王の楽譜の最後の部分。
[ドイツ語] war tot
[英語] was dead
[日本語] 息耐えぬ
坊やが息絶える直前、 ”war”(歌詞)の前にピアノで静かに優しく「じゃ〜ん…」とC#dim7のコードが入ります。
C#dim7のコードを指板上で見ると、すごくよく分かります。
じゃじゃん。
トライトーンのバーゲンセールです。
トライトーン全開で不安を聞き手の不安を煽り、最後に「war tot(息絶えぬ)!」ですよ。
息絶えた直後はD7→Gm(マイナーのV-Im)という大円満な解決でフィニッシュです。
なんて美しい音楽の世界!!
「トライトーンはトニックに戻って安定したがる」という性質が教科書のように利用された楽曲ですね!