スラッシュコード、分数コード、オンコード。
これらは厳密にはまったく意味の違う和音を指しています。
間違った知識で覚えてしまっていませんか。
恥ずかしいので、間違っても「あぁ、おんなじ意味だよー」なんて覚えないように!
スラッシュコードについて
回転系としての解釈
まずは回転系から。
メインコード(分子のコード)の構成音のなかの音がスラッシュで指定されている場合は、「回転系(Inversion)」の指示として解釈するのが一般的です。
コードのルート以外の音を低音部に回す配置ですね。
色をつけてみると分かりやすいと思います。
青い音符は同じ音です。
読み方は「CスラッシュG」が正しい読み方になります。
日本では「CオンG」という読み方が浸透しているのですが、これで覚えてしまうと後述するポリコードの認識の際に問題が生じてしまいます。
注意しましょう。
スラッシュで指定される音は、あくまでルート音ではなくてベース音という解釈になります!
この考え方がすごく大事!
例えば「Dm7/F」
このコードのルートはあくまでDです。
ベース音(最低音)がFなだけ!
回転系では使っている音自体はメインのコードと同じなので、コードの機能が変わることもありません。
- 基本形(natural)…1度がベース音に置かれたコード(C△7)
- 第一回転系(first inversion・ 一転)…3度をベース音に回したコード(C△7/E)
- 第二回転系(second inversion・二転)…5度をベース音に回したコード(C△7/G)
- 第三転回形(third inversion・三点)…7度をベース音に回したコード(C△7/B)
ハイブリットとしての解釈
ウワモノの3度, 5度, 7度以外の音が低音にくる場合は「ハイブリットコード(Hybrid Chord)」として解釈します。
コードトーン外の独立したベースラインが指定されているイメージですね。
赤い音符は、ウワモノのコードトーン以外の音になります。
回転系と同じようにベース音を指定する表記ですが、回転系のコードよりも濁った響きになるのが特徴です。
超厳密に解説すると
- Rootを分母に置きましょう!
- コードスケールからRと3rdとavoidを抜きましょう!
- 残った音を使って構成できるコードを分子に乗せましょう!
という3ステップのルールのもとで組まれるのが「ハイブリットコード」です。
……なのですが、実際には「分子のコードの構成音以外の音がスラッシュで指定されているコード = ハイブリットコード」と覚えておけば不都合なく対応することができます!
分母と3rdについて
ベース音から見て3rdの音がウワモノに含まれているなら、それはハイブリットコードではなくただの和音になります。
例えば、Em/C。
これはCから見た3rdの音=Eの音がウワモノに含まれているのでハイブリットコードとは識別しません。
ただのC△7です。
Em = E, G, B / +C
C△7 = C, E, G, B
ほんとだ、同じ音ですね。
Em/Cと捉えても演奏上はまったく問題ないんだけどネ!
理論的には「分母の音から見た3rdの音が分子に含まれてない」というのがハイブリットコードを識別するために指標になります。
テンションなどでコードネームがごちゃごちゃするのを避けるために、敢えてこのような表記にする場合もあります!
なので、一概の間違い!悪い表記!というわけではありません!
分数コード(ポリコード)について
こちらは、分母・分子ともにコードが指定されているポリコード(Polychord)と呼ばれる形。
楽譜上で
G
―
B
と縦に並べて書かれるやつです。
日本語では「複合和音」と呼び、そのままコードの上にコードを乗せて演奏します。
上の例だと、BコードとGコードを同時に演奏します。
上側をアッパーストラクチャー(Upper Structure)、下側をロウアーストラクチャー(Lower Structure)と呼びます。
- 半音上、2度上、5度上、6度上のメジャートライアド
- 2度上、5度上のマイナートライアド
アッパーストラクチャーとして、よく登場するのはこのあたりのコードが多いですね。
ジャズの演奏においてよく使う「アッパーストラクチャートライアド(Upper Structure Triad= 通称UST)」もポリコードの一種です!
日本語では「上部構造3和音」と呼び、その名の通り分子にトライアドが指定されるポリコードのことを指します。
分数コードとスラッシュコードについて
分数を横文字で書くときに「2ぶんの1」を「1/2」というようにスラッシュで表記しちゃうじゃないですか。
これが「BぶんのC」と「CスラッシュB」を混同させてしまう弊害です。
次の項目へ続く!
オンコードについて
ここまでの知識を踏まえて。
「Am/Dm7」のように明確に和音/和音で表記されたときは複合和音として判断しやすいのですが、
「C/G」みたいな1文字/1文字の表記だと回転系(Inversion)を指しているのかUST系の音を指しているのか字面だけだと判断に困る場合があるんです。
これを明確に「コードじゃないよ!単音だよ!」と指定するときに「ConG」という表記が使用されます。
この解釈が一番分かりやすいのではないかなと思います!
“onコード”というのは、日本独自の概念です。
海外の文献や講師さんの発信でon chordという言葉を使って説明しているものを見つけることはできませんでした。
世界中で愛されている演奏練習アプリ iReal Proで「onコード」を指定する機能は備わっておりません。
ベースの取り扱いについて
我々ベーシストは「スラッシュで指定された音を軸に演奏する」というのが教科書通りの弾き方になります。
ただ実際の演奏では分子の音も普通に演奏するので、あくまで「基本は分母」という覚え方で良いと思います。
「絶対に分母」ではありません。
また、ここまで「厳密にはスラッシュ・分数・onコードは違う意味なんだよ!」というお話をしてきましたが。
現代音楽を演奏するうえでは、ほぼ同じものとして解釈してしまっても問題ありません。
話の文脈や、実際の楽曲の響きを聞いて上手に判断しましょう。
すっかりコード表記のルールが飽和しているので、むしろ今の時代に「それ間違ってるよー!!」なんて指摘すると”厄介な絶対許さないマン”認定されてしまいます。
自分だけ正しく解釈できていれば良いのです!
わざわざそれを人に押し付けなくても良いのです…!